自分はお世話になったことはないけれど、空港で "lost and found" を見かけるたびに、英語ってシンプルだなと頷いてしまう。「遺失物取扱所」と言われるよりなんだか lost and found だと、なくしちゃったけど見つかる感じもしませんか。

人間は忘却の生き物です。忘れないと新しいことを覚えられないという許容量の問題だけでなく、意図して忘れ去りたいことも多い。忘れたくない、忘れてはいけないこともたくさんある。ここは忘れっぽい自身の日々の「公共備忘録」です。また、立ち寄ってくれた方たちがここで何か発見をして、喜んだり怒ったり哀しんだり笑ったりしてもらえれば幸いです。

《 NOTICE 》ちなみに今はもっぱら脱原発ブログとして展開中であります

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2011/10/04

木を見て森を見ず・その2

前回書いた「ひとつのリスク回避が導いてしまう他のリスク」の続き。

放射能対策に有効だというふれこみで様々な情報があります。その数はどんどん増え(最近は下火になってきた感もありますが)あきらかに疑わしいものや詐欺まがいのものも含まれていることから、少し前に注意を喚起するサイトやツィートも頻繁に見かけました。ウェブ上だけでなく、雑誌や本などでも、今や「放射能対策」はよく見かけるキーワードです。両派(●●は効く、効かない)が対立して小競り合いが始まったりしていて、なんだかなぁという感じでイヤな気分になるのですが、情報リテラシーの問題でもあり、重要なので、記しておくことにします。

まず「●●は効く、効かない」ということが話されるとき、どちらの側にせよ断定的な物言いを見ると気になってしまいます(「放射能汚染は危険なレベルだ or それほどではない」の議論にも通じます)。これだけ複雑であらゆる可能性が明確でない問題の答えを、とくに学者が、断定して特定の方向へ誘導するような発言をされていると、どうなのだろうと。あまりに固執して柔軟でない場合、バックに誰かいんの?と勘ぐってしまいます。学者なら小難しいデータなりを知識のないひとにも読めるように噛み砕いて提示して、可能性の検証なりを教えてくれると嬉しいのですが、あまりに肯定・否定の決めつけ度がすぎると、それは学者の範疇ではないのではと思います。これでは「パニックになるから」と市民の判断能力を見下して、提供する情報を操作した政府と同じ。一般市民は間違った判断をしちゃうから、代わりに判断してやるという感じなのでしょうか。特定の学者の発言や説を妄信する人々も然りで「あなたは本当のことをわかっていない」的な態度になる人もいます。

「放射能に効く"エセ科学"(あるいは "トンデモ科学" や "ニセ科学")」と物議をかもしているものには、米のとぎ汁乳酸菌、EM菌、マクロビ、スピルリナ、ホメオパシー、特定の音楽の周波数(?)などなど。もっと他にもあるんだろうけど。とある生物学に詳しい方による「これらは非常にあやしい」との反論を以前にもリンクしました(参考:同筆者による「デマのできかたと不安につけ込む業者たち」)。それを読んだとき、情報をきちんと見極めるために様々な意見をきちんと見て精査していかないとなーと思ったわけですが、同時に、科学的論拠どうこうというのとは別のところで、なんとなく「決めつけられている感じ」が腑に落ちませんでした。試してみないとわからないよな(藁をもすがる気持ち?)という気持ちも。放射能防護に関しては、放射能のからだへの悪影響が時間が経たないとわからないのと同様に、防護の効果もすぐにはわからないと思うのです。自分のような科学のバックグラウンドまったくなしの人間がのたまうのもなんですが、いずれにせよこういった効く・効かない問題はみんな違う体質なんだから個人差もあるだろうなと。なので、モノにもよるけれど、わたしならエセと決めつける前に自分の体には効きにくかった or やり方が悪かったのかな、といつも思います。こう書くとやっぱりスピリチュアル系と思われるかもしれないけど、わたしはどうも物事すべてが科学で解析できるというのは人間のおごりのような気がするし、個々の人間の差というのを軽視しているように思えるんですよね。いつも効能のある何かを他人に勧めるときは「わたしには効いたけど」という言い方をすることにしています。

新しく出てきた民間療法的な放射能への対策法を「あやしい!無意味!」と激しく反対する方は、自分や家族がその代替医療のようなもので痛い目にあったのでしょうか。確かに極端に信仰してしまった場合、健康に悪影響が生じるケースもあるようです。そうなればまさに木を見て森を見ず・・・放射能に気をつけてたら別の害が生じちまったということに。しかし、被害を被った立場でもなく、実際試したこともない
(直接尋ねてはいませんが)ご様子の科学者さんだったり、一般の方たちだったりの声により、膨らみすぎている感のあるこの議論。この方たちは「この不安に乗じて人を騙す奴らが許せない!」というシンプルな正義感から反対意見をぶつけているのでしょうか。なぜだか素直にそうも思えないのです。 少し前に『エセ科学批判が、ネット上でのいじめにつながっていないかの検証が必要だ。なぜエセ科学の唱道者でなく「変わった」一般市民へのバッシングにつながりやすいのかの検証。ニセ科学サイドは、科学リテラシーの衣を着た警察気取りなのではないか?』というツィートを見かけて、ふむふむ、と思いました。人を騙す行為はわたしも怒りを覚えるし、パトロールする気概も賛同しますが、単にこのカルト的動きが鼻につくという方々のご意見もあるのかもしれません。

そう、この一連の動き(●●が効く/効かない問題 and 放射能は危険/そうでもない問題)の両極の一部がカルト化していることが確かに問題でもあります。「あっちの世界に行ってしまったから連れ戻せない」とか「こっちの世界に戻ってきてよかったね」とかいうコメントもどこかで見たな・・・。効く/効かない問題にいたっては、特定の食べ物の薬効が自分の体にぴったりきて効いている例も存在するわけで(たとえプラセボであったとしても)・・・その人たちには効いていんだからいいんじゃないかと思うのですが、本当にそのあたり宗教を取り巻くものに似ていて、宗教にアレルギーを持ちがちな日本人の間ではイシューの扱いが微妙です。


前出のホメオパシー(レメディ)は放射能云々の前からよく非難の的になっていて、賛否両論ある代替医療です。わたしも常用者ではありませんが、以前に少し使ったことがあります。感想としては「よくわからない」。確かにおまじない的なところはあるのだろうなと思うけれど、否定はしません。問題視するほどでもないと思うのだけど、問題があるとすれば医療忌避に結びつく(一般の近代的治療や薬の代わりとしたがる)場合があるということ。新薬と併用しても問題なく、やはり極端に走るとよくないということです。今回も放射能に効くレメディとやらが出てきたので非難が再燃したようです(わたしもこれはちょっとどうなの、と思うけど)
スピルリナも何かと思ったけれど、藻類からできた健康食品/サプリメントのようで(あやしいわけではない)普通に販売されています。イギリスのオーガニックショップでも Defence Boost として朝鮮人参+スピルリナ入りナッツバーが売られていたので食べてみたことがあります(別に腹も痛くならなかったけど、即元気100倍!にもならなかった)。免疫力アップにいいようなので、それで今回も放射能対策に駆り出されてきたものと思われます。
米のとぎ汁、これもうちでつくってみたけれど、これは「どの状態で成功とするのか」が判別しにくく、きちんとしたプロセスや環境で正確な知識のある人によってつくられれば効果的に利用できるものなのかもしれないけれど、臭覚と味覚を伴わないレクチャー(ウェブの文面のみ)からの見よう見まねだと、反対派の方が指摘されているような衛生問題からマイナスな結果が生まれてしまう可能性はあると感じました(ので、うちでは難しいな、と判断したのでやめました)(参考:「米のとぎ汁発酵物が放射能を除去するという説について」ウィキペディア)。関連して、ある種の微生物を用いることで土壌の放射能汚染の低減が期待されるとして、実用に向けて研究されているようなことも耳にしました。
マクロビだってただの玄米菜食なんだから、体に悪いことはないだろうし、免疫向上という意味では有効なのだと思います。ちょっとそんなに叩かんでも、という感じ(参考:「"玄米と味噌で放射性物質除去が可能"説とその反応」)。

「デマ」「エセ科学」と言っても、科学的に研究が進められている途上のものもあれば、だれかが金儲けのために適当にこねくり混ぜた薬もある、単に体にいいと昔から伝承されている食べ物もある。様々なレベルや効能の幅があるだろうに、可能性を潰して一束に否定するのはどうかと思うのです。で、その可能性を潰してしまうかどうかというのは、それらをバッシングしている人たちの声によるのではなく、庶民の科学リテラシーの高低でもなく、わたしたちの情報を判断するバランス感覚にすべてはかかっているのだと思います。

もちろん効能を発信する側の説明の仕方にも非はあると感じています。個人的な理解ですが、「放射能を無害化する」なんてのはすでに「無害化」てのがあやしいけれど、「放射能に負けない体づくり(免疫の強化)」というのは必要で、有効だと思うのです。今回放射能対策で話題にされたもの(特に食べ物)の中で、発酵食品類は腸内の環境を整えて免疫力をあげるのに効くということは確かだと思うし、傷つけられたDNA 修復のために大量のビタミンや抗酸性物質が消費されるので、抗酸化物質を取り入れよ、というのは、わたしは頷いているんだけどなぁ・・・ここまでだったらアリだけど、これ以上進んで「これが効く」はデモ吹聴?難しとこですな。発信する側も、受信する側もバランス バランスと言うことで・・・今日はこんなところです ©筑紫哲也。

関連リンク:
 (放射能対策にいそしんでいる人たちは「放射能に克つ近道」
 を探しているわけではないし、少しでも子どもの被曝量を減ら
 そうと必死な親だったりするのだけど、その反対派の意見の一
 部には「こういうのに騙されているのは無知な主婦」的な失礼
 なステレオタイプも見え隠れすることがあるようです)
 (が、おかしいぞ、というご意見)

【 追記 10/10 】
参考記事:「SNS」でお宝情報を手に入れる人、デマに踊らされる人(プレジデント・オンライン)

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